15 期待
休息を告げるかのように西に沈もうとしている茜の日や二藍色の空が、街全体を包み込んでいる。こういうときは、人々の歩みも自ずと緩やかになるものだが、このライヴハウス前では、人々が騒がしく屯している。
サークルのメンバーもいるが、サークルのメンバーの友人や知り合い、SNSをチェックした人々、また地元のライヴハウスファンも来ている為、結構な人々が集まっている。
今日はライヴハウス『Blue Garden』で、『Anemone』『Rollers』『ロケットえんぴつ』『34SCREAM』そしてスグルのバンド『Boketto』がライヴをする。いつしか、合図をするかのように、カラスがカーと鳴いた。時刻は18時30分になり、いよいよ開場だ!
受付でお目当てのバンド名を言い、事前に決めた名前で入場していく。どのライヴハウスにもノルマはあるものだが、今回の『Boketto』のノルマは10人分で、半分自腹の覚悟はしているが、上手く集まればプラスが出るかもしれない。そんなことよりも、今日の出来次第だ。今日の出来次第で、バンドの存続も、サヤカとの今後のことにも大いに関わってくる大事なライヴとなる。
ときに、人は場を与えられる。舞台を授かることは、とても尊いことだ。たとえば、ライヴという場を与えられたスグルは、常日頃より、あるいは生まれたときから(生まれる前からといっても、過言ではない)、ライヴするように、神様に導かれ、期待されて、その器を調えられてきたのだろう。本人の意志もあるが、実際に起きてくる出来事には、神様の御心もあるのではないだろうか。しかし、そんなことは、つゆしらず、当人達は無我夢中なものでもある。
各バンド、リハーサルも終わり、いよいよという気持ちにはなっている。一つ言っておくが、リハーサル中に見せるサウンドや歌声は、幻かもしれない。その演者は、ライヴによってのみ、真の輝きを放つものである。
ちなみに、日本人はカラオケも好きだが、カラオケだけでは本人の傾向は出るだろうが、アーティスト性までには到らないであろう。まだまだそのあたりに、人々の大きな誤謬があるように想えてならない。