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ヒョンソクとヨンミは、懐中電灯で夜道を照らしながら一緒に丘を登った。丘は岩だらけで急勾配だった。ヨンミが足を滑らせ躓いた。

ヒョンソクは彼女を助けようとして、彼女に手を差し伸べた。ヒョンソクがヨンミの腕を取ると、彼女は彼にもたれかかり、必要以上に密着していた。ヒョンソクはそっと彼女から離れた。彼は彼女とあまりにも早く先へ進みすぎることが怖かったので、自分を抑えようとしたのだが、彼女はいつでも積極的だった。

「気をつけて、躓くなよ。湖に落ちないようにな。なあ、ソヤン湖の幽霊の声が聞こえないか?」

ヒョンソクの言葉にヨンミは怯えだし、彼にぴったりとくっついた。ヒョンソクはもう一度、それとなく彼女との距離を取ろうとした。

丘の頂上に、古い家があるのが見えた。彼らは家の中へ入った。電源コードが蜘蛛の巣さながらにあちこちにぶら下がっていた。家に明かりがついた。ヨンミは家の中の光景に驚いた。そしてピアノを見つけ目を大きく見開いた。かなり古びたピアノだった。

ヒョンソクはどうやってこのピアノをはるばるここまで運び上げたのだろう。彼女は部屋を見回し、ジャズミュージシャンの写真や、アルバムや本がおさまっている棚をじっと見た。

「びっくりした?」

彼が尋ねた。

「これを全部、どうやって?」

彼女は感嘆の声を上げた。

「どうやってピアノを運んだの?」

ヒョンソクは答えずに、歩いていってスタン・ゲッツのアルバムを手に取った。

「ここは僕の秘密の練習室なんだ。このことはだれにも話しちゃだめだよ」

ヨンミの目が、壁に飾ってあるハーレーダビッドソンの写真に留まった。

「素敵なバイクね!」

彼女は言った。

「ハーレーダビッドソンを知っているの?」

「日本に住んでいた時、いとこのお兄ちゃんが乗っていたわ」

「ほんとうに?ハーレーのエンジン音を聞いたことはある?」

「ええ、あなたの言いたいことがわかるわ。もしかして、バイクそのものより、エンジンの音のほうが好きなんじゃない?」

彼女はとても鋭いと、ヒョンソクはひそかに考え、彼女が彼をこんなに理解していることに驚いていた。ハーレーについて話したことさえないのに。たいていの人は、彼がハーレーのことを口にすると、そのエンジン音ではなく、本体が欲しいだけだと決めてかかる。彼は言った。