「で、いま、何時かしら?」
「えっとぉ」
二人揃って腕時計を見た。
「十二時二十五分ですね」と、ズングリ。しかし、ノッポが
「いや、おまえさんのは、たいてい五分、進んでるからさ。正確には十二時十九分です」
と訂正した。
「ありがとう」
時間は、そのまま。アレから二十分くらい経っているとして、うん、そんな感じ……日にちも確かめたかったが、適切な質問が思い浮かばない。でも、たぶん、十日だわ。
「相変わらず、細かいねぇ、おたくは」
「おまえさんが大雑把なんだよ」
二人の会話には、どこか漫才の掛け合いのような、気の合った流れを、智洋は感じた。二人は、単なる同級生ではなく、親友同士、仲間なんだろう……。
「いや、おたくが杓子定規なの。五分くらい、いいじゃん」
「よくないさ。何時かと訊かれたんだから、なるべく正確に答えるべきだろうさ」
「そりゃまあ、そうだけどさ。一分一秒まで正確に答える必要はないだろうよ。ですよね」
だけど、少し寒く感じる。それは、でも、心の寒さかも……。
いくつかの、目の前の事実と証言から、智洋は、いまいるここが二〇〇一年のいまではないことを認め始めていた。しかし、一九七一年? そんなの……いくらなんでも、そんなの、信じられない……。
ズングリが見つめているのに気づいた。
「えっ?」
「いや、いいです」
照れたような顔をした。カッコイイわけではないが、人懐こい感じ。意外に、モテるタイプかもしれない……ノッポのほうが明らかにイケメンである。彫りが深いし背も高い。が、やや理屈先行気味で、少々繊細なところがあるみたい。女の子としては、ちょっと、つきあいづらいかも。
三十年前の若者? わたしも十分、若者なんですけど……。ん? こんなこと考えてるって、少し鎮まった? わたしの混乱。
「わたし、こっちに行くけど」
智洋は、小さな賭けに出た。
「ああ、はい、ぼくらも大橋です」
よかった。反対側に行くと言われたら、ここで別れなければならない。それに
「大橋」。
場所に変わりはない。もう少し、この二人から情報を得たい。いま独りにされるのは心細い。ううん、独りになんか、なりたくない。歩き始めた。