貧富の格差を縮小するためには「累進課税+技術革新」

『二一世紀の資本』の理論はあまりありませんが、資本収益率(r)と経済成長率(g)の関係式が見出されています。rとは、利潤、配当金、利息、貸出料などのように、資本から入ってくる収入のことです。gは、給与所得などによって求められます。過去二〇〇年以上のデータを分析すると、資本収益率(r)は平均で年に五%程度でしたが、経済成長率(g)は一%から二%の範囲で収まっていることが明らかになりました。

このことから、経済的不平等が増していく基本的な力は、r>gという不等式にまとめることができます。この不等式が意味することは、資産(資本)によって得られる富、つまり資産運用により得られる富は、労働によって得られる富よりも成長が速いということです。言い換えれば「裕福な人(資産を持っている人)はより裕福になり、労働でしか富を得られない人は相対的にいつまでも裕福になれない」ということです(逆に言いますと、経済成長率が一~二%と低すぎるともいえます。日本などは一九九〇年代以降はゼロ成長です)。

すなわち、資産によって得られる富の方が、労働によって得られる富よりも速く蓄積されやすいため、資産金額で見たときに上位一%、一〇%、といった位置にいる人の方がより裕福になりやすく、結果として格差は拡大しているのです。蓄積された資産は、子に相続され、労働者には分配されません。格差は現在も拡大に向かっており、このままいくと、やがては中産階級が消滅すると考えられます。

そこでピケティは、不均衡を和らげるには、最高税率年二%の累進課税による財産税を導入し、最高八〇%の累進所得税と組み合わせればよいとしています。その際、富裕層が資産をタックス・ヘイヴンのような場所に移動することを防ぐため、この税に関して国家間の国際条約を締結する必要があるとしています。

以上のようなことから、アメリカによって代表される資本主義を改革するには、r>gにおいて、資本収益率(r)を抑えて、つまり、累進課税を復活させて、経済成長率(g)を高める、つまり、技術革新を進めることが必要ということになります。

《二》新規産業が起きない日本

筆者は通産省の機械情報産業局・宇宙産業室長兼研究開発型企業振興室長をやっているとき、『ベンチャービジネス成功への決定的条件』(東洋経済新報社、一九八四年刊)で日本で新規産業が起きない理由、今後、どうしたら起きるようになるかを述べていました。この執筆以後、日本はバブル期に入り、バブルがはじけて、平成年間に入りましたが、この平成三〇年間という長い期間(一世代に相当します)に一部を除きほとんど新規産業は起きず、その状況は現在も続いています。その要旨を以下に述べます(表現は本書に合わせています)。