兆し
疑惑
高取に釘を刺されたが、吾郷は放ってはおけないと思った。ただ、高取に迷惑をかけるわけにはいかない。彼は三人の子を持つ父親だ。自分にも家族がいる。うまくやらねば。でもどうやって……、吾郷は自問する。
――もし黒岩産業から不正な金が佐分利市長に流れたとすれば、黒岩の会計に「架空経費」など、なんらかの不正処理があるはずだ。
それに絡むのは監査会社だが、探るのはほぼ不可能だろう。黒岩産業とのしがらみや、見逃していた事実が明らかになれば厳しいペナルティが監査会社に課せられる。何も権限のない俺が探れるわけがない。
仮に「使途秘匿金」として処理されていたとしたら税務署が絡むことになる。しかし税務署は税務上の不正を追いかけるのが仕事であり、犯罪絡みの金の行き先を追及する機関ではない。
一方の市長側は闇処理しているだろう。これを知り得るのは不正経理に絡んでいる黒岩の経理担当者か市長の事務所の会計担当秘書だが壁は厚い。
さらに表部長の変わり身の理由が、もし……。
吾郷は頭を掻きむしった。