同窓会

会場には懐かしい顔があちこちに見える。「真栄山高校同窓会総会」は毎年開かれているが、吾郷は初参加だ。元担任や同級生に挨拶して回っていると、「よっ、久しぶり」と肩を叩かれた。

「……あ、村野か!」

思いだすまで少し時間がかかった。村野とは三年時に同じクラスだった。

「ずいぶん貫禄がついたからわからなかったよ」

「結婚してからだいぶ太ったからな。でもアゴはあまり変わってないな。頭もフサフサだし。知ってる? 久しぶりに会うと、目のやり場に困るほど後退している奴もけっこういるぜ。やっぱり東京にいると老けないのかな」と言って村野は笑った。

「そんなことはない。これでもかなりユルんだよ。ムラは何してる?」

「真栄山日報にいるよ」

「ローカル新聞は何かと大変だろ」

「ああ。全国紙と、最近はネットニュースとも競合して大変だ。うちもネット配信はやっているが、紙数減をカバーするには至っていない」

村野は肩をすくめた。

「全国紙やネットが配信しない地域密着の報道で勝負するしかないな」

「それが王道だ。ところでアゴは銀行辞めて月城市役所だって。もったいない」

「そうなんだ。でも銀行もある意味構造不況業種さ。人を必要としなくなってきてるんだ。だから見切りをつけた。今じゃ高取にいろいろご指導を仰いでるよ。役所の仕事は、まだまだ生身の人間が必要だから」

「高取にか。お前ら相変わらずいいコンビだ」

「そろそろ総会が始まるぞ」

高取が声をかけてきた。

「お、噂をすれば」と村野が言うと、「え、え、噂ってなんだよ。ムラ、変な記事載せるなよ」

高取の反応に、吾郷と村野は吹きだした。

総会が終わり、懇親会が始まった。総会なので大先輩から後輩までかなりの人数だ。面識のある同窓や教師への挨拶回りが一段落して、吾郷は高取、村野ら同期の輪に加わった。

「卒業以来だから挨拶が大変だよ」

「しかたないさ。アゴは生徒会長だったから」と田中が言った。田中は真栄高では演劇部だった。卒業後東京の私大に進学したが、中退して役者を目指した。だが、今は家業を継いで造園業を営んでいる。

「ところで立花先生は来てないじゃないか」

高取が会場を見回す。

「え、立花先生来るの?」皆が口を揃えた。

「そうなんだよ。まだ山北で鳥と話しているのかな」と吾郷も見回す。

しばらく歓談していると、「指名手配犯人確保!」

振り向くと立花が立っていた。その場にいた全員が、ワオ、と声をあげ、「立花先生お久しぶりです」と一斉にあいさつする。

「ご無沙汰ね。元気だった?」

はい、と声を重ねる。

「まあ。生物の授業のときも、それぐらい元気だったらよかったのに」

立花の皮肉に爆笑が起きた。

「それはそうと指名手配ってなんですか?」と村野が訊いた。

「だって、高取くんと吾郷くんは山北の自然が壊されるのを横目で見てるんだから。職務怠慢よ」

「ひえー手厳しいな」

「ひえーじゃないわよ。まだ半分残っているうちにどうにかしなさいよ。吾郷くんもよ」

「あ,はい」

場が笑いで包まれる中、村野の目が笑っていないのを吾郷は見逃さなかった。村野の仕事を考えると、山北開発に(まつ)わる情報を何か知っているかもしれない、と直感した。

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