「では説明しますので、出来ればお女郎さんも同席してもらえますか」
「まず、俺に聞かせてくれよ」
「いいですよ。では……」とリュックサックからペニシリンの薬と注射器を出した。
「それかね?」
「はい」
「どう使うんだ」
「まず、この小さいカプセルから注射器で中の液を吸い出します。それをお女郎さんの体に注入します」
「痛そうだな」
「針が細いですから刺すときは〝チクリ〟としますけど、痛みはその時だけですよ」
「なるほどー」
「ここまでは分かりました?」
「うん、うん、うん」
「女将さんも分かりましたか」
「初めて聞くもんだから『そんなもんか』ぐらいでござんすよ」
「それだけ分かればいいですよ」
「で、体のどこに入れるのだ」
「腕かお尻ですね」
「ふうん……」
「一番いいのは余り痛みを感じないお尻ですね」
「そうなのか……俺は打ったことがないからな」
「打てば分かると思います」
「それだけで治るのか」
「症状にもよりますが……軽ければ一回で済みます」
「何日で治る」
「軽ければ二~三日で治ります」
「重いとどうなる」
「症状を診て判断しますけど……寝たきりだと無理かもしれません」
「だろうな」
「動ければ重くても、一週間から二週間ですね」
「それも一回打てばいいのか」
「いや、症状を診ながら何回か打ちます」
「それで一回打つといくらぐらいになる」
「一本、十両(百万円)です」
「えぇぇぇえ……高けぇなぁ~」
「超特効薬ですから、朝鮮人参よりも良く効きますよ」
「いくら効くと言っても、ちょっと考えるなぁ……どうだ、お静」
「そんなに高いのじゃ、うちとしては女郎に負担させないと割に合わないねぇ」
「無論、女郎が持つんだろうな」
「元締さんの方です」
「わしが大損するではないか」
「本当ですよ。年季が明ける前に死んだら、うちは大損でござんすよ」
「元締も女将さんも先を考えてください。もし、元締さんのお女郎さんが瘡毒を持っていないと評判になれば、お客様は安心して遊べるから、今まで以上にどしどし来ます」
「それはそうだけど。どうやって知らせるのだ」
「江戸スズメの口コミもありますが、瓦版に載せたり、店の入り口に【瘡毒の無い店。遊んで心。それでも低料金】などの看板を出すのですよ。そうすれば遊びに来た、お客様は必ず見ますからね」
「なるほどー」