第一話 ペニシリン
「それに有利なことに、元締の店は大門から一番手前にあります。だから、嫌でも見ることになりますよ」
「そうだなぁ……」
「今、料金はいくらですか」
「女郎は二百文(二千四百円)か三百文(三千六百円)で、買いに来るのは町人か百姓だ。花魁を買うお大尽は、一両(十万円)以上だ」
「そしたら、遊び代を上げればいいのですよ」
「他の店より高いと、お客は来なくならないか」
「謳い文句は瘡毒にならない事ですから、死なないで済むなら多少高くても、ない方に来ますよ」
「それもそうだが……」
「これは今の利益より将来への投資ですから」
「そう言う考え方もあるか」
「そうですよ」
「お前さん。女郎に尻拭いさせればいい事だよ」
「十両(百万円)だぞ。年季が明ける前に死んでしまったら、元まで取れないよ」
「なら、こうしましょ」
「いい案があるか」
「お女郎さんに負担を掛けないことで、一回一両(十万円)ではどうですか」
「一気にさがるな」
黒鉄屋は、いい加減な野郎だと苦笑いした。
「わたくしは、哀れなお女郎さん救済のために来たのですから」