「なるほどー」
「それで手を打ちますか」
「どうする」
「今までの話からすると、一両(十万円)だったら傷は浅いわね」
「そうですよ」
「よし! やってみるか」
「そうですよ。それで何割か値上げすれば一両ぐらいの投資は無駄にならないでしょ」
「値上げしたら金のない客は逃げてしまうよ」
「そんな事ないですよ。自分の命がかかっていると思えば、夜鷹や岡場所通いで瘡毒を貰うよりは、高くても吉原に来るようになりますよ」
「そうかなぁ……」
「元締。先行投資の精神がなければ、大きな商いは出来ませんよ」
「それもそうだな」
「それに、お女郎さんたちは読み書きそろばんなどの手習いをしているでしょ」
「そうだよ。それに、行儀作法も身に付けているよ」
「年季が明けたらどうするんですか」
「家に帰るのはいるけど、何処にも行くところがないのは、夜鷹になるか、岡場所に行くか、街道の宿場で飯盛女郎になるだけだな」
「田舎に帰っても口減らしで、また売られてしまうでしょ。だったら、これを生かさないのは勿体ないですよ」
「それもそうだな」
「そこで、元締に相談があるのですが」
「なんだい」
「今日から住む家がないので、何処か長屋でも探してもらえますか」
「家に帰ればいいじゃないか」
「それが葛西村から来たので遠すぎて、ここまで通うのが大変なんですよ」
「そぅだよな。あそこからここまで来るのに、丸一日掛かるからな」
「そうなんですよ。だから朝から診られるように、近くに住みたいのですよ」
「それなら俺の家に泊れよ」
「いいのですか」
「その代わり、狭いぞ」
「何畳ですか」
「四畳半かな」
「一人ですから、それだけあれば御の字です」
「治らなければ奉行所に突き出すからな」
「大丈夫です。必ず治しますから」