第一話 ペニシリン

……!?……

「あの元締、どういう性格なんですかね」

「昔からひねくれた性格だけど、年をとっても直らないな」

「生まれ持ったものは死ななければ、直らないものですよ」

「なんかいい方法ないかな」

「気の変わるのを待っていたら、何人のお女郎さんが殺されるか分かりませんからね」

「そうなんだよな」

「勇吉さんも頑固ですね」

「そぅみたいだなぁ。若い連中は頭が柔らかいから、先の見通しには敏感に反応するんだよ」

「そうでしょうね。で……あの勇吉さんに弱みか、何かはありますか」

「うぅん……これと言ってないな」

「こうなったら外で呼び込みをしましょぅか。それで、北に行かせないように、引き込んでしまったらどうですか」

「そんな強引な事は出来ないよ」

「かと言って、力で追い出すわけにはいかないでしょ」

「騒動を起こしたらお上に睨まれて、廓は取りつぶしになるよ」

「そうでしょうね」

「北の元締には奥さんや子供はいないのですか」

「三年前に病で二人とも死んでしまったんだよ」

「流行り病ですか」

「なんか食あたりだったらしいよ」

「同じものを食べて勇吉さんだけ死ななかったのですか」

「奴は悪運が強いから、生き延びたんだよ」

「フグですかね」

「かもしれないな」

「じゃ、独り身ですね」

「後妻を貰った噂は聞かないから、そうだろうな」