第一話 ペニシリン
「で、いつからやる」
「良ければ、今からでも診ますよ」
「三十人診られるか」
「もし、瘡毒を持っていたら、その場で治療しますので、注射を打ったら一日は安静にしていないといけませんから、十人ずつ診ますよ」
「だれからやるかね」
「そうですねぇ……うぅん……こうしましょうか」
「いい案があるか」
「直ぐ働けるように回復の早い、年の若い人からやりますか」
「それもそうだけど……」
「何か……」
「初仕事から瘡毒にはかからないだろう」
「そんな事はないですよ。運のいいお女郎さんは多数のお客を取っても瘡毒にかからないけど、運が悪いと、一発で貰いますからね」
「それもそうだな」
「でしょ。だから全員診察しないと分からないのですよ」
「分かった」
「そしたら、大広間がありましたら、そこに集めてもらえますか」
「それはいいけど、集めてどうする」
「一人ひとり話を聞いて、病気があるか無いか判断します」
「そうか」
「持っていたらその場でこの注射器でペニシリンを、お女郎さんの体に注入します」
「それで治るのか」
「はい。比較的に軽い人は、一週間ぐらいで治ります」
「そんなに早く治るのか」
「そうです。重くても三週間から二ヶ月もあれば完治しますよ」
「なるほどー」
「その他に淋病もありますから、それも治します」
「淋病。てのは、なんなんだぁ。それも治さないと死ぬのかい」
「そうです。あまり気が付かないですけど、結構持っているのですよ」
「診て分かるのか」
「お女郎さんの話を聞いて判断します」
「なら、それも頼むよ」
「任せてください」
「でも、聞いたことのない薬だわねぇ」
「わたしが今年開発した薬ですので、まだ何処の医者も持っていませんよ」
「そうでござんすか」
「でもよ。その後に瘡毒を持っているお客を相手にしたら、うつされてしまうだろ」
「その対処は後でお話しします」
「そうか」