【前回の記事を読む】日本で「カエルの肉」は定着しなかったが…食用ガエル大繁殖のワケ……
にらみ鯛
私は子供の頃、鯛の塩焼きが大好きだった。特に活けの鯛が好きで、養殖になると少し大味になるような感じがするのだが、本職さんは何と仰るだろうか。
お正月になると活けの鯛、目の下35㎝くらいのを魚屋で買って焼いてもらっていた。今思えば、鯛も正月値段で、随分高価だったはずだ。しかし残念なことに、にらみ鯛だから、三日の朝にならないと食べさせてもらえない。関西では、そういう風習があるのだ。
私も大学生くらいになると、少々図太くなってきていたのか、ある年、二日の朝に鯛を食べたくて仕方なくなった。そこで、狂言の太郎冠者じゃないが、誰も見ていないのをいいことにして、箸を付けてしまった。そこが鯛好き、もうちょっと、もうちょっとと食べている内に、「ええい、ままよ」とばかりに片面を全部食べてしまった。
さあ、どうする? 思案しても始まらない、鯛を裏返してやった。鯛好きの面目躍如と言ったところだが、不思議なことに、家人の誰もがそれに気が付かない。
三日の朝になって母が上機嫌ではしゃいでいる。
「さあ、鯛を食べるわよ。れいこ! 早くいらっしゃい!」
私は、寝床でクスクス笑っている。
「あら?……裏面が無い!」
母の甲高い声が聞こえてくる。私はいよいよおかしくて、おなかを抱えて笑っていた。