金魚

夏になると思い出す風物詩の中に「金魚すくい」がある。私は下手で、一匹も取れないうちに紙が破けてしまう。2、3匹買って帰って、しばらくは眺めているのだが、大抵数日で死なせてしまうのだった。

金魚と言えば、幼い頃の私の夏の着物には赤い金魚の絵柄が描かれてあった。その着物の生地は()で、もちろん正絹だ。浴衣も着たが、お祭りとなると、この絽の着物に兵児帯(へこおび)だった。母は和服が好きだったから、私もよく着物を着せられた。長じた後もお稽古事の関係で着物の数だけは多くて、振り袖、訪問着、付下げなどだけで10着くらい有ったが、結婚後は、もっぱら洋服で、箪笥(たんす)(さお)分の着物は全て宝の持ち腐れになってしまった。

結婚したてで、私がまだミシンを捨てていなかった頃、自分で少し夏物を縫ったりしていた。その中に今でも覚えているアンサンブルがある。ノースリーブのワンピースに半袖のヘチマカラーのジャケットだ。ワンピは赤地に直径2㎝くらいの白の水玉模様。ジャケットは逆に、白地に赤の水玉模様。着て出かけると人目を引いた。私の服を引っ張りながら

「この生地、同じお店で買われたんでしょうね」

と、しげしげ見る人もいた。エジプト旅行にもこれを着て行った記憶がある。しかし、このアンサンブルにまつわる高揚した気分も、久しぶりに会った長兄の一言で(しぼ)んでしまった。

「なんや、この服、金魚みたいやなぁ」

栗林の鶯

高松市に住んでいた時、栗林(りつりん)公園に近かったためか、我が家の庭にも幾種類もの野鳥がやって来て声を競っていた。先住者は、割り箸や針金で果物を木の枝に吊して、意図的に野鳥をおびき寄せていたようだ。無農薬で青々と茂った木々に恵まれた庭だった。

普通の庭木以外にも、高いシュロの木が3本、イブキ、それに巻き付いたアケビ、渋いのがたわわになる柿の木、甘い実のなる枇び杷わの木等々。

ある日、隣家で作業をしていた建築業者が、我が家の庭について大声で言い合っている。

「おい、蜂がいるぞ。気を付けろ!」

「ああ、ここは自然の宝庫だからなぁ」

(あら! 蜂もいるんだぁ)

春ともなると鶯がやって来て我等を目覚めさせてくれる。随分と贅沢な環境だなと悦に入っていた。その鶯も初鳴きの頃は上手に鳴けない。ただホー、ホーと鳴いている。

それが日を追うごとに段々上手になってくる。

ホー、ホー、ケキョ、ケキョ。

それが春も盛りになる頃には上手になって、

ホーホケキョ! 

ついには、上手なだけじゃなくて味のある一節を(うな)り始める。

ホーーーケキョ! ケキョ、ケキョ、ケキョ! 

う~ん、これじゃ雌鶯もたまらないだろう。私もたまらない!