第一章 巡り合い

そんな彼の趣味の一つが、読書であった。中でも彼は、感情的で、人間性を追求したヨーロッパ文学と違い、控えめで美しい日本文学に興味を抱いていた。私は自身が元気づけられた、ある日本の作家の本を、彼を元気づけたくて、国際郵便で送り続けた。

東洋の英知に彼も興味を示してくれ、毎回送る英語版の翻訳本を彼は読み続けてくれていたのである。彼の家系は敬虔(けいけん)なカトリックであった。にもかかわらず東洋思想に興味を持ち、読み続けてくれていたのである。

そもそも北アイルランド紛争は、宗教紛争といわれる。キリスト教のローマ教皇の教会に属するカトリック系住民と、英国国教会に属するプロテスタント系住民による殺し合いだった。北アイルランドは、アイルランド共和国と陸つながりであるが、イギリス領である。

もとをただせば、アイルランド島全てがイギリスの植民地であった。しかしアイルランド全島は、古くからローマカトリックが支配的であり、グレートブリテン島より、英国国教会を信仰するプロテスタント系の、いわゆるアングロサクソン人などによる侵略によって、勢力図に変化が生まれた。

そして近代になって、今の国境ラインが敷かれた。北アイルランドだけを見れば、プロテスタント系住民の方がカトリック系住民より多い。しかしアイルランド全島で見ると、カトリック系住民の方が圧倒的に多いのである。そんな中、テロが一九九〇年代まで続いていたのである。ロバートの長兄チャールズが亡くなったのは、休戦協定が結ばれる一年前の、一九九七年のことであった。享年二十六、愛する妻に息子、家族を残して。