八月の()だるような暑さを避けようと、風通しの良い北向きの四畳半の茶室に寝そべり、覚慶様とそれに関わる三好党の今後について、あれこれと思案しているところへ、使者を連れた本庄孫三郎が神妙な面持ちでやってきた。

「殿ぉ、内藤家から、ご使者が参っております」

「内藤からの使者とは、また丹波で謀反かぁ」

と、儂は呟きながら、甚介から……ではなく、『内藤家からの使者』という言葉に違和感と嫌な予感を同時に覚えた。

茶室に入って来た使者と孫三郎は、何故か既に目を赤くしており、使者は腕に兜を抱えていた。

「で、何があった?」

「申し上げます。我が(あるじ)内藤蓬雲軒様は荻野直正の拠る丹波黒井城を攻めておりましたが、思わぬ夜襲に遭い、昨日の八月二日、お討ち死にされましてございまするぅ」

使者は、涙声を(こら)(ごら)え、報告を続けた。

「蓬雲軒様の首は討たれ申したが、こうして兜だけは奪い返してございます」

抱えていた兜を捧げて面前に置いた。

「……」

全身を襲った脱力感と目眩(めまい)に耐えきれず、床に崩れ落ち、儂の身体は横向きに倒れ込んだ。

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