恐喝だ。まさかとびっくりした。一瞬、精神状態が錯乱した。ぐっとツバを飲み込んで一息ついて冷静になって言い返した。
「Mさん。私は、仕事でここに来ました。仕事中にドスで刺されるのだったら本望です。やるならやって下さい」
と内心こわごわだったが、強気できっぱり開き直った。
「おぉ。お前。脅したら交換するやろと思ったが、開き直ったな。ええ度胸しとるわ。お前気に入った。よう分かった。このまま使たるわ。脅かしてすまんかったな。もう直ったから、お前に用はない。はよ帰りな」
と詫びてくれた。ドスを畳から抜いて鞘に納めタンスにしまった。一時はどうなるかと思ったが、単なる脅しでよかった。私は一刻も早くこの場を去りたかった。
「Mさん。もし、今度故障しましたら、新品と交換させて頂きます。このたびは、本当にご迷惑をおかけ致しまして申し訳ありませんでした。お時間を取らせました。お邪魔致しました」
と詫びた。
「今度故障したら、承知せえへんぞ。お前に直接電話するからな。今度は、迷惑料を持ってこいよ。覚えておけよ。ええな」
「よう分かりました。それでは、失礼致します」
とお辞儀して足早に去った。上司に修理完了の報告をしたが、波風を立てたくなかったので脅かされたことは言わなかった。
これまでクレーム処理で色々なお客様と接したが、こんな、柄の悪いお客様は、後にも先にもいなかった。仕事上の恐い想い出の一つだった。