舟が出るにはまだ時間があると男が言うので、市を見に行った。市には秋田犬ぐらいの大きさの犬が何匹かいた。秋田犬と違って毛が短く、四本の足はすらっとして、顔も細長い感じがする。胸のあたりも筋肉質だが、おなかから後ろ足にかけてスッと引き締まっている。猟に連れて行けば大活躍をしそうだ。
目つきはドーベルマンのように鋭い。飼い主らしい人が子犬の競りをしている。子犬の方は好奇心旺盛で行き交う人々を観察し、興味が次々に移るのか右に左にひょこひょこと走り回る。ちさの方に走ろうとして、こてっと転んだ様が幼い。少し小振りの紀州犬のような犬もいる。狩猟犬に使うのか、それとも番犬として使うのか、ゲンタが洞窟の男に尋ねたが、「さぁ」という顔をしただけだった。
狩猟犬として犬達が取ってきたのかもしれないイノシシや鹿がそのままの姿で売られている店もある。あれをさばくのかと思うとはるなはいやだと思った。先ほどのイノシシを思い出して涙が出そうになった。
「イノシシ、怖い。お化けになったら、たたられそうで」
と、ちさがまた震えだした。さゆりにピタッと寄り添い、手をぎゅっと握った。男が、
「しゅがある。じゃあくをおいはらう」
と、言った。店の人が、
「いのしし、しか、おおきい。はんぶんたべる。はんぶん、ほしにく。そうこでほぞん。こうかいにももっていく」
と教えてくれた。みやがなんとなくここの生活が理解できてきたと言った。リュウトが思い出したように男に尋ねた。
「さっきの山のイノシシ、何で、おじさんはイノシシの首を切らなかったの。僕たちがそれを見るのがいやだろうと思って、切らなかったの? それとも、刃物を持ってなかったから?」
「くび、きる。ち、でる。ち、おおかみをよぶ。あぶない」
「ああ、そういうこと」
「てっきり、ちさが真っ青になって、みやちゃんが泣き出したからだと思っていた」