かすかな甘みのする餅
帽子をかぶり、日に焼けた顔をしている人が大勢いる。「彼らは舟乗りだ」と洞窟の男が言った。洞窟の男も贅肉がなく、腕の筋肉はものすごいが、舟乗りたちはもっと全身が筋肉の塊のようだ。今日が特別な日なのか、それともいつもこうなのか、舟乗りたちが何人もの人に白い布で囲われた内側へと案内されている。
人々は舟乗りたちをかなり丁重に案内している。舟乗りは特殊な職業で、とても尊敬されているようだとはるなは思った。航海の安全を祈る祭りだから、今日は舟乗りが主役だからなのか、それとも彼らは常にヒーローなのか、はるなにはそこのところは分からなかったが、いずれにしても大きな力を持っている、社会の中心を担う人たちだと見える。
舟乗りたちが白い布の所まで到着すると、あたりにいた人たちが一斉に姿勢を正した。はるな達は中をのぞき込んだ。中央の祭壇には樫の小枝や槙の枝が花瓶に生けられ、その手前にヒオウギやキンギョソウなどの美しい花が飾られている。巫女のような人が髪に榊を挿し、祭壇中央に釣り下げられた釣り鐘に一礼をした。
「あれはね、銅鐸っていうだに。使い方は全く分からないって話だったけど……」
とみやが言った。
両側にひかえていた楽器を持った人たちがゆったりとした音を奏で、それに合わせて、巫女が銅鐸をならした。一回、二回、三回。舟乗りたちは両手でその音を受け取ろうとしているのか、水をくむように両手を合わせて祭壇の方へと突き出し、汲み取った音を自分の頭の上から浴びるように流した。
そして深々とお辞儀をし、案内されて舟の方へと戻っていった。巫女も引き上げ、楽団の人たちは別の曲を演奏し始めた。どこにひかえていたのだろうか、三人の女性が出てきて、羽衣のような薄い布をひらひらさせながら、踊り出した。洞窟の男は厳粛な顔をしてずっと祭壇を見ている。自分たちの労働の成果が無事、目的地に着き、自分たちの必要なものと交換されて、それらが無事にここまで帰ってくるようにと祈っているようにはるなには思えた。