【前回の記事を読む】大切な情報は意識せずとも聞こえてくる…驚きの聴覚の仕組み
再び両耳分離聴課題について
ふだん、いろいろな音声が聞こえる際、それらが全く同時ということでなければ、次々と注意を転換、移動していって、それらの音声を意味処理していけるわけです。意識をもっての注意の転換には百数十ミリ秒程度かかり、意味処理には200ミリ秒程度はかかるといわれています。
ここで、さきほどの両耳分離聴課題では、片方の耳からの追唱にかなりの注意資源を使わなければならないと考えられ、非注意の耳からの情報に対しては、意識をもっての注意転換後に意味処理をすることは、おそらく時間的にもできない状況と思われます(もちろんそちらの耳の情報には注意を向けないことが課題の条件ですが、仮に注意を向けたとしても、追唱を優先させるならば、意味処理まではできない状況と思われます)。
このことから、両耳分離聴課題の結果を考えますと、200ミリ秒以上かかるといわれる意味処理が必要な情報には気付かないということではないかと思われ、気付かれた内容はもっと短時間で知覚できるような内容と、(c)※1(d)※1のように瞬時に感覚的に(?)わかるような、知覚できるような内容ということではないかと思います。
さきほど申しましたように、自分の名前(e)※1は、自動的な注意の転換後に認識されるということと思います。これは、MMNの出現後に認識されると考えられ、100〜200ミリ秒程度かかると思われますが、おそらく自分の名前の認識は速い(?)のではないかとも思います。
(g)※1の結果は、電気ショックで条件付けられた単語(例えば都市名)と関連したカテゴリの単語(都市名)が、意識にはのぼらなくても認識はされているということを意味していますが、これも「自分の名前」と同様に、定常状態からの自動的な変化検出(電気ショックと関連した危険性の察知)という過程が起動した、自動的な注意の転換(MMNの出現)を経て認識されたというようなことではないかと思っています。
この場合の単語の認識には、ふつうなら170〜200ミリ秒程度かかりそうな印象ですが、もしもその単語(都市名)が、関連カテゴリとして意味プライミングまたは直接プライミングを受けていれば、その単語の情報処理は速くなると考えられます(プライミング〔効果〕は記憶のところで出てきます)。
また、その単語は、非注意状態のため、感覚情報保存によりタイムラグを伴って認識はされることとなると思われますが、もしそれが意識にのぼらないとすれば、同時に行われる追唱課題の遂行のほうに注意が向いているために、意識にのぼってこないということと思われます。
これによって認識はされても意識はされない状態となります。また(f)※1に関しては、追唱する内容は(ある程度は)意味処理もされているものと考えられ、一方の耳からの情報だけを追唱しているわけですが、もう片方の耳から関連した単語が入力されると、意味処理の過程にその単語が組み込まれてしまう(一緒に認識されてしまう)ということではないかと考えられます(組み込まれた時点ではその単語が逆の耳からのものであることは認識されていないのでしょう)。