【前回の記事を読む】弁当の注文数が2割増し!単純作業の配達員による驚きの改革

五感に訴える仕事 《三十二歳〜三十三歳》

そんな或る日、デパートへの配達に行った恭平は衝撃的な光景を目にした。陳列された新商品の惣菜を見つけた隣のブースの店員さんから声を掛けられた。

「わ〜、美味しそう! それ、買って帰るから取っておいて!」

開店前から、早くも売れたことに気を好くした恭平が、自社の販売責任者に、「良かったね、早速に売れて」そう声を掛けると、渋面で反論された。

「あの人が買って帰るって言う時は、閉店直前の半額で取って置けってことですよ」

「……⁉」

デパートの店員間に、そのような慣行があることを知った恭平は、絶句した。絶句した事実を父と弟に伝え、改めて店舗経営からは撤退し、給食弁当の食数を増やすことに注力しようと提案した。

社長である父は、収益性はともかく年間一億円を超す店舗売上の削減は、資金繰りの悪化を招くことを楯に反対した。だからと言って自転車操業を続ける限り、我が社に未来は無いと恭平は反論し、互いに譲らぬ口論は白熱した。そんな二人の激論に口を挟もうとしない弟の修平に、恭平は問うた。

「常務、お前は、どう考えているんだ?」

「社長の考えは、その通りだと思うし、専務の言うことも、よく解る……」

「そんな評論家みたいなことは聞いてない! お前自身の考えを聞いているんだ!」

単に自分の生活の糧としてではなく、社員たちの生活が懸かっている仕事に対し、傍観者然とした無責任な発言に、恭平は激怒した。