「お前は何時も、その場を取り繕うような発言ばかりで、自分の意見は無いのか!」

「こんな中途半端な借物の工場で、会社が発展できると思っているのか!」

「おまえが一人前の仕事をしないから、俺が帰って来る破目になったんだろうが!」

帰郷してからずっと堪えていた不満が、一気に口を衝いて出た。

「恭平、好い加減にしろ! 兄弟じゃないか」

社長の立場を忘れ、兄弟喧嘩をたしなめる父親の𠮟責が飛んだ。

「兄弟だから、親子だから言っているんだよ。他人だったら、こんな会社、とっくに辞めているよ」

「恭平!」

父親にビンタを張られた恭平は、不動のまま大きく深呼吸して顎を上げ目を閉じた。激怒に駆られ、口にしてはいけない台詞を吐いてしまった自責の念に駆られていた。好きだった仕事を辞め、広島に帰って来たことを、深く後悔していた。そして、父や弟と仕事を続けていかざるを得ない前途の多難を想い、絶望の淵に沈んでいった。

(俺は、好きな仕事を捨ててまで、何のために広島に帰って来たのだろう?)

恭平は、自問自答を繰り返した。

(親父をラクにさせ、弟を一人前にするためだ!)

綺麗事ではなく、誓って本心から、そう決意して、恭平は帰って来たはずだった。だのに、当の父と弟に改革の邪魔をされている理不尽さに、強いジレンマを覚えていた。親子だから、兄弟だから、話し合え、理解し合えると思い込んでいた。でも、そう考えていた恭平自身に、甘えがあったのかも知れない。

(父とか弟とか言った肉親への情を捨て、抜本的に会社の将来を考え直してみよう!)

そう考え直した恭平は、何度も何度も深呼吸を繰り返した。