【前回の記事を読む】鉄道旅中、突然何者かが荷物検査を…鞄から出てきた驚きのモノ
第一章 米・中米・南米の旅
密輸列車―ボリビア(ビリャソン)→アルゼンチン(ラ・キアカ) 一九七三年二月一七日
列車の出発までに検査官がもう一回乗り込んできて検査。検査官が列車内に入ってくるとコカを持ったおばちゃんたちの動きが密かではあるが活発になってくる。ある人はコカの包みを持ってどこかへ去っていき、ある人は包みを別のところに移し、また自分のポンチョの中に隠す。その前にコカの香りが充満しているのを消すために、零下に近い外気温なのに、列車の窓をいっせいに開けて空気を入れ替える。
二回目の検査後、二十三時になってようやく列車は出発。しばらくすると一人のおばちゃんが窓を開け、身を乗り出して外を見ている。こんなに寒いのになぜ窓を開けているのかと思っていると、走行する列車の線路脇で待っていた人からコカの袋を受け取った。車内持ち込み荷物の検査が厳しいのでこのようなことを考えたのだろう。
次の停車駅が近づいてくると、また窓を開けて数人の人が外を見ている。今度は検査官が乗り込んでくるのを見張っているのだ。見張りの人が「検査官が二人!」と叫ぶと、またおばちゃんたちの行動が始まる。外国人の荷物は調べないからと、こちらにもコカの包みを持ってくれと頼み込まれる。ポンチョの中に隠していたが実に不安だった。
おばちゃんが言ったとおりにこちらの荷物の検査はなくて一安心。その時、先ほど走行中に線路脇の人から受け取ったコカの包みがあまりにも大きくて車内で隠しようがないので、検査官が車内に乗り込んできたときに窓の外にぶらさげてしまった。
しかし、あまりにも重いのでその包みが落ちかかってきた。それに気づいた近くの男の人が窓の外に向かって「ケソ(queso=チーズ)! ケソ!」と物売りの物まねをし、それに応えるようにおばちゃんが窓を開けて「ケソをちょうだい」といいながら、窓の外に身を乗り出してぶらさげたコカの包みが落ちないように結び直している。
真相を知っているこちらはおかしくて仕方がなかったが当人たちは必死である。この検査のときもたくさんの包みが押収された。
◆マチュピチュの都市遺跡
信じられないような急斜面の山頂に都市が建設されている。
麓の政府営の学生用バンガローに宿泊して、四百メートルの標高差を登って、三日間この都市遺跡を堪能した。
◆チチカカ湖を渡ってペルーからボリビアへ
ボリビアに入り、サン・ペドロからチチカカ湖の対岸のサンパブロに渡る。トラックやバスは箱舟のような平べったい舟で運ぶ。人はモーターボートで別に渡るが1人20円支払う。
対岸のサン・パブロにはボリビア海軍(ボリビアには海がないから湖軍か?)がいて、演習をしていた。しかし、その演習たるや、国家財政が貧しいためなのか、実弾射撃ではなくて子供が軍隊ごっこをするように、指を突き出して、口で「ダン! ダン!」と叫びながら射撃練習をしていた。
なんとものどかな風景である。