進んだ先にあったのは…

時おり冷たい水滴が身体に落ちてくるがいちいち気にしてもいられず、とにかく今は誘導された通りに進むしかない。進む先に目をやると、鍾乳洞も段々本物らしさを増し、濡れた両脇の岩肌を触れて見てもすべすべしているのがわかる。

このあたりまで来ると今の時期でも思いのほか寒さを感じることはなく、幸い危惧したような気味の悪い生物に遭遇するようなこともなかった。だが、時おり後ろに気配を感じることがあり、そのたびに振り返って見てしまう。何者かが遠巻きに、闇の中からこちらの様子を窺っているのだろうか、不気味な思いが付きまとう。

それになにやら奥に滝でもあるのか、湿った空気とともに、水が流れ落ちる音が聞こえてきたのだ。当初は地底の滝によいイメージを持てなかったのだが、耳から聞こえる音は靴音ぐらいのものだったので、ひどく新鮮に感じ、見てみたいとの思いがした。非日常的な空間においては自分の感情の変化にも不思議を感じる。

「今はだめです。水量が多く危険が伴います。後から気の済むまでゆっくりと飽きるほど見てちょうだい」

全くもって嫌味な言い方に、不快に思ったと同時に心の中が読まれていると感じた。

「あなたは誰なの、なぜ私の名前を知っているの。父と母は、大丈夫なの? それに疲れたわ、お腹も空いたし少し休みたい」

心を読まれていることを確かめるとともに、ちょっとした意地悪心で、またも確信犯的に立て続けに思ってみたのだ。

「いいわ、休みましょう。でも私を試す必要はありません」

すべてお見通し。結局は近くに座れるくらいの岩を探して、そこに腰を下ろすことになってしまった。下手な駆け引きは無用のようである。

なおも重ねて、「あなたが感じたように私には相手の心が読めます。あなたの母、時子は無事です、レオは近くにいるはずです。父、佳津彦は今ここに向かっています。私が呼びました。私が何者なのかはいずれわかるでしょう」

彼女はそう言うけれど、姿が見えない者とは心が通うはずもなく、疑念は深まるばかりだった。そればかりかまた時間が気になり携帯電話を見ると午後4時を過ぎている。時間の経過の速さに驚き、立ち上がり、心機一転さっそうと歩き出した。