「あと、どんだけの距離歩けばいいの」

今起きている一連の出来事を、早急に終結させるべく歩く速度に拍車がかかる。

「急ぐ必要はありません、あなたのすべき役割は、私が目覚めた時からすでに決まっていたのです。もうすぐ目的の場所に着きます」

逆らってみても、無駄なことは承知の上だが、すでに決まっていたとはどういうことなのか、一矢報いる、ではないにしろ、一言言ってやらないと収まりがつかない。

「どういうことよ。私の人生はあなたの事情で決まったってわけ。目覚めるって何よ、どんだけ寝てんのよ。ふざけないでよ!」

これまで溜まったうっぷんが一気に噴出してしまった。

「ごめんなさい。あなたの胸中を察するとその怒りは当然です。説明は後でしますので、お願いですから少しの間我慢してちょうだい」

そんな彼女の謝罪に逆上した自分に悲哀を感じ、取り繕うように言う。

「お願いされたら仕方がないわね」

ここでどれだけ悪態をついたとしても、虚しくなるだけだ。憮然としたまま無言で歩いていると、だんだんと今置かれている自分の情景が滑稽に思えてくるのだ。地中深く闇の中、若い女の子が一人っきりで大声を出し、悪態をつきながら歩いている、何とも奇妙な光景であろうか。

そこでまた、思いを読み取った彼女の声が聞こえてきた。

「どうやら怒りは収まったようですね。あなたの疑念をすべて解明できる場所がこの先にあります」

間もなく、闇の中から白く四角い物体が出現した。偶然窪みにできた影がチョット見、目のように見えて、どうしても妖怪・ぬりかべと錯覚し苦笑してしまう。それにどうやらその壁で行き止まりらしい、近づいてみると、畳2畳ほどの大きさで、分厚い石版であることがわかる。

この石版が封印と見受けられ、裏に疑念を解明できる空間の入り口があると推察された。叩いたり蹴ったりしてもびくともしない、恐ろしく巨大というほどではないにしろ、なんせ石でできている、明日美の力で動かすことは到底叶わないであろう。

「ねえ、どうやって開ければいいの、本物の妖怪・ぬりかべじゃないよね。なんかカラクリでもあるの、それともおまじないとか呪文的なものでもあるの?」

ファンタジー的な要素を少し期待してみた。
「もうすぐ佳津彦がここにきます。佳津彦にはことの仔細を伝えてあります。それまでここで待ちなさい」

思いっきり聞き流されてしまい少々気落ちしたとはいえ、命令口調にも慣れてもう怒る気もしない、素直に従うことにして、また座れるぐらいの鍾乳石に腰を下ろした。