「あと一球」のコール
そこで、相手チームのサーバーにプレッシャーをかけるため、私自身が大きな声で、
「あと一点、あと一点」と二度三度、大きな声で叫んだ。きっとこのコールを私のクラスの生徒たちが繰り返してくれるだろうと考えたのである。
しかし、私の考えは浅はかだった。この言葉を繰り返す生徒は皆無だった。
それどころか、女子の数人が私に、こんなことを言った。
「先生、その応援はやめようよ。かわいそうだよ」
その一言で、私は、はっと我に返る思いがした。クラスの生徒たちが求めているものは、私が欲していたものよりもはるかに純粋で、気高いものであることに気づいたからである。
「そうだな。その通りだな」
私がそう答えたとき、相手チームのサーブが大きくそれて、私のクラスのチームの勝利が決まった。
「やったー」
クラスの生徒たちは、何人かが抱き合って喜んでいたが、学級担任である私は、うれしい半面、大きな後悔の念にかられていた。勝つために手段を選ぼうとしなかった自分に対する反省の思いが込み上げてきたのである。