Yさん奮戦記

女子ソフトテニス部のYさんは入部当時からよく泣いた。そのほとんどが悔し泣きだった。同学年の入部者たちに比べ、身長も低く、走る速度も遅い。最初の頃はサーブもなかなか入らず、試合でも勝つことが皆無だった。中学校のソフトテニスの試合は、すべてダブルスである。心の幼さ故に、自分のミスが許せず、パートナーのミスも許せない。自分が後衛として一生懸命ボールを追い、打ち返しているのに、前衛が一向に働いてくれない。そんな思いが表情に露骨に表れ、ダブルスのコンビネーションもうまくいかない日々が続いた。

その度に、悩み、毎日のように暗い表情をしていた。そんな彼女の変化のきっかけは、運良く選手として出場した新人戦大会であった。新しい技術として研究中だった「アンダーカットサーブ」が功を奏し、なんと二回戦を勝ち抜き、三回戦まで進出した。パートナーの前衛も一生懸命にボールを取りに動き、チーム内ではもっとも高い位置まで勝ち抜いた。勝因は「開き直り」であったと思う。

女子のプレーヤーは、技術的にある程度の域に達すると、守りに入り、相手のコートに丁寧にボールを入れ始める。「ミスをしないように打とう」という意識が、攻撃の姿勢にひずみのようなものを生じさせ、それがだんだん大きくなる。ところがYさんにはそれが当てはまらない。ただ思い切り振り切るのみ、「攻撃、攻撃、攻撃」である。その姿勢は三年生になっても変わらなかった。

さらに研究を重ねた新しい武器「バックハンドのカットサーブ」が有効に決まり始めると、校内のチーム内の順位も急速に上昇してきた。部長、副部長を含めた団体戦メンバーと呼ばれる選手たちが、首をひねりながら、彼女たちのペアに負けていく。それも一回や二回ではない。Yさん自身も、心の中にわずかな自信を抱きつつあった。

私自身は、四十年間近くこの競技を指導し続けてきたが、Yさんのような例は希である。彼女に引っ張られるように、彼女のパートナーである前衛の選手も、次第に上達し、生き生きとプレーをし始めた。二人のコンビネーションも、高いレベルを示し始め、下級生たちの、Yさんを見る視線があこがれに変わっていった。