「猫」
ちさが小声でさゆりにささやいた。それを受けて、さゆりがはるなに尋ねた。
「ねえ、はるなちゃんは、猫、好き?」
「うん、好き。でも、今まではマンションだから飼っちゃダメってママが言ってたの」
また、ちさが小声で言った。
「猫神さん」
はるなは、
「ん?」
と、さゆりを見た。みやが頷いている。さゆりがさらにはるなを誘うようにそれに続けた。
「ちょっと川を上流へ行ったあたりに、猫神さんがあって、本当は、お松大権現ていうんだけど、皆、猫神さんて言っとって、招き猫がいっぱいまつられてて、本物の猫もいっぱい居って。皆、のらだけど人なつっこくてかわいいんよ」
「このあたりの知らないとこ、いろいろ案内したげる」
さゆりが約束をした。ちさは心の中で思っていることがいっぱいあるのに、それを口に出せない内気な子、さゆりは同級生なのに、なんとなくちさのお母さんの役目をしているような雰囲気だ。まだ、なんとなく二人との間に壁を感じながらも、友達になれそうな気がして、こくんと小さく頷いた。
次の日、音楽の時間に合唱があった。四宮先生の合唱の説明の後で、ちさともう一人の女の子がリコーダーでそれぞれのパートの旋律を吹き、男子の一人がタンバリンを叩いた。それに合わせて二つのパートに分かれ全員で「花」の合唱をした。昨日の頼りなげなちさとは違い、透き通った、きれいな音色で、よどみなく吹いた。
「やっぱりちさがリコーダーを吹いてくれると歌いやすいよね」
とクラスの人たちが口々に言った。はるなも確かにそうだと思った。