福寿草

「大丈夫かね!」

すると、痛そうにうなり声を出したのは、金髪の青い目をした青年だった。

「生きているよ!」

おハルさんは青年の顔を叩き、雪を払い、起こそうとしたが、骨折しているようで動けない。おハルさんは、車から雪そりを出してきて青年をどうにか雪そりに乗せようとした。「私はもう八十歳なのだから、こんなことはね、無理なのだよ。若いころは力仕事で男に負けたことはなかったけどね。でもあんたは重いよ」

雪で傾斜をつくり、そりごと車に乗せようとした。

「サンキュー。ありがとう、ございます」

意識を取り戻した青年は声を発した。

「気がついたのかい。雪崩にやられたね。手が動くなら、このロープにつかまって、そりごと車に乗せるから」

なんとか車に乗せることに成功した。

「私の運転では心配だろうけどね。病院までがんばるのだよ」

「ダイジョウブ、うーん……イタイ! デス」

青年は我慢しながらも、うなっていた。雪道をおハルさんはおろおろ走り、やっと村に一つしかない病院についた。

青年は骨折や打撲をしていたが命に別条はなかった。病院ではおハルさんが一人で救出してきたことに驚き、話題になった。青年はイギリス・ロンドンからの留学生で春の山スキーに一人で出かけ、雪崩にあったらしい。

入院中、おハルさんは福寿草を鉢に入れて届けたり、手作りのワインをご馳走したりした。青年は日本での留学を終え、今年の春には帰国の予定で、帰国前に大好きな北海道の自然の中で最後のスキーを満喫したかったという。そして、ロンドンに帰国したら、日本とイギリスの旅行会社を自分で立ち上げたいという。

「日本のおばあちゃんに何かプレゼントしたい」

青年は新しい携帯電話をおハルさんに手渡し

「この番号を押せば、ロンドンの私に繋がります」

おハルさんは自分の携帯電話を嬉しく思い、お返しに押し花の絵をプレゼントした。

「あなたの旅行会社が成功しますように、心から祈っています。大好きな北海道を忘れないでくださいね」

別れを惜しんでおハルさんが言うと青年は大きくうなずき、おハルさんをしっかり抱きしめた。

「あなたの孫がロンドンにいると思ってください、アイ・ラブ・ユー」

とおハルさんの小さな肩に顔をうずめた。

「外人さんのあいさつも良いものだね。とってもあったかい腕の中だったよ」

初めてハグされたおハルさんは恥ずかしそうにほほ笑んだ。ひ孫がおハルさんの耳元で囁く。

「そういうときはね。ユー・ツー、私もって返すものだよ」

青年はロンドンに帰り、各国を旅行中だ。旅行先から、世界の珍しい布地が送られてくる。おハルさんのパッチワークの材料が増えた。青年が事業に成功して、また北海道に来たとき、今度は彼にジャケットを縫ってプレゼントしてあげようと、準備している。

好きな裁縫をしながら、ときどき青年の腕の中に抱かれたハグを思い出す。子どものころ父の懐に抱かれ、胸の鼓動が伝わってきた、あのぬくもりに似ていた。いくつになってもラブは素晴らしい。