紅茶見聞録その6 イングランド発祥ラグビーと紅茶の意外な接点
試合が、キックオフした。
「スコットランドには勝てないでしょうね」
目の前で鉄板焼きの準備を進める初老のシェフが、話しかけた。
「今日は、日本が勝ちますよ」
私は少し意地になって、語気を強めてしまった。
その直後スマホのテレビ画面は、最初のトライをスコットランドが決めたことを映していた。
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ラグビーワールドカップ2019では、日本チームは世界中のラグビーファンを唸らせるすごい試合を見せてくれた。特に日本対スコットランド戦は、前回ロンドン大会ではやりたい放題に大量得点され悔しい敗戦を余儀なくされたが、今回はティア1(tier1)のスコットランドに対して、見事に雪辱を果たすこととなった。その結果、無敗でベスト8決勝トーナメントへの進出を決め、日本の感動は最高潮となった。
映画俳優のダスティン・ホフマンにどことなく似た顔立ちのグレイグ・レイドロー選手は、スコットランドが誇る名スクラムハーフで正確無比のキックを持つ。2015年の前回大会では、失点の大半は彼にしてやられた結果で、憎らしいほどに精密な技術と冷静な戦略判断を併せ持つ印象であった。今回は日本の圧力に屈し、いいところを封じられていた。相手のお株を奪う、日本の実力勝ちの内容であった。
大変心外な結果であったかもしれないが、試合後のインタビューでは、日本チームと日本のファンに対して称賛を贈る紳士のラガーマンであった。彼へは前大会以来憎らしささえ感じてきたが、それは自分の浅はかな思い込みであった。難しいことだが、強い人間こそ、負けた時の態度は大切だ。