その紙をじっと見ていた娘は、言った。
「父は、今床に臥せっています」
「では、ご病気ですか?」
「はい……」
麻衣は娘の様子から、父は臥せっているのではなく、何か事情があって奥から出られないのだ、と思った。
「そうですか。是非会いたいのですが」
娘は黙って、麻衣を怪訝そうに眺めている。
「どうしてもだめですか?」
「はい……」
麻衣はこれ以上押しても駄目だ、と観念した。
「では、また来ます」と言い、その家を後にした。
何かおかしいな、と思った。何故だろう? 娘の態度に違和感が募るのだ。父が病気なら、いや病気でも、会いたいと言う人がいたら、会わせるはずだ、と思った。
歩いていると、昨日会った女が井戸端に出てきた。
麻衣が礼をすると、その女は、「あ、ちょっと待って……」と言った。
「はい、なんでしょう」
「あそこ、いたかね」
と言う。
「ええ、娘さんと会いました」
「違うよ、お父さんの方だよ」
「えっ?」
「お父さんの方だよ。お父さんに会わなくちゃね」
と半分笑いを含んだ言い方をする。
「でも、ご病気とか……」
「ふん、違うよ。会ってみな!」
麻衣はこの女が言うのと、娘が言うのと、どちらが本当だろうか、と思った。やはりもう一度、会って見なければいけない気がする。