自分の学校独自のユニフォーム

「ウチ、利益いらないですから」

あはは、とさわやかな笑顔とともに名刺を差し出した緒方さんは言うのだ。名刺には緒方(おがた)直樹(なおき)とある。

そんな、きちんとやってくれないと、かえってこちらも困るんです。と言いはするものの。

「いや、個人的には嬉しくてね」

ユニフォーム、大磯東独自のユニフォームを作ろう、と、いくつかのスポーツショップに見積を打診したのだ。前に山本先輩に紹介された横浜のショップも、好意的に対応してくれた。でも、破挌の対応を示してくれる業者さんが現れた。

「バルちゃんから、紹介されたんですよ。精一杯応援してあげて、って」

「あ、じゃあ」

「ハイ。応援させてください。オレも、高校生の時、今の大磯東さんのような所から這い上がって行ったんですから。バルちゃんから聞いて、他人事と思えなくて」

「望洋高校ラグビー部、ですよね」

「ふふ、カッコつけて言っちゃうと、初代キャプテンです」

「今は、横浜南部じゃあ有力校の一つですもんね」

「後輩たちが頑張ったおかげです。オレたちの頃は何やってんのかよく分からないまま。夏休みなんか、バルちゃんの差し入れ目当てで練習来てるやつまでいましたからね」

時節柄、色々と細かな制約もかかってきている。公務員である佑子が、特定の業者と癒着、などと評価されるわけにはいかない。

目の前にいる緒方さんの朗らかな笑顔が、何かの不正を企んでいるようには、もちろん見えないのだけれど。

「心配しないでくださいね。オレも、フェアにやります。会社に損させるわけにはいかないし。でもね、オレもラガーマンだったんですよ。ユニフォームへの思い、よく分かってますから」

会議室の端っこで、テーブルをはさんで緒方との交渉を始めていた。でも、互いが背負っていたあの頃のグラウンドや部活への思いが、どうしたってにじみ出てきてしまう。同じ頃、同じような思いでグラウンドを踏みしめていたことは、きっと間違いない。

緒方は言うのだ。垣かき内うちさんという激しい先生と、たった六人で始めたラグビー部。元々は陸上で中距離を走っていた緒方は、垣内先生というヒトと出会って、自分の視野が大きく開いたのだ、と言う。