鳥の唄と雨の唄
榎くんがラグビー部の練習に居合わせるのは珍しくなくなったのだけれど、いつの間にか部員と同じ練習着やスパイクを用意していて、気がつけば一緒にウォームアップをしたりしていた。あまりにも自然だったので、佑子は彼に問いかけることさえ忘れかけていたのだけれど。
花園予選が進んでいく十月、一旦龍城ケ丘との合同を清算した。そして、単独ティームとしてのあり方を考えながら、さて、榎くん、どういうつもりなんだろう、と、思った。
「この写真、見てくださいよ」
榎くんは、薄いグラフ誌を手にした。部活の事、どうするの? と問いかけた放課後の部室でのことだ。
一般の人がどう見るかはともかく、紙面の端に、龍城ケ丘のユニフォームが見える。紺と白のボーダーのユニフォームなど珍しくもないのだろうけれど、その肩の上に乗っている顔が同級生となると、話は別だ。視線が斜め前方に向いているのは、まぎれもなく保谷くん。
同じ方向を向いた緊張感いっぱいのレフリーは、菅平での最初の試合で笛を吹いてくれたレフリーに違いない。と、すれば、カメラマンはバルちゃんということになるんじゃないか。もっとも、雑多なスポーツシーンが並べられた紙面には、撮影者の名はない。
「ラグビーじゃなくても、良かったんですよ、ホントは。でもね、ラグビー部を追って写真撮ってたら、なんだか自分でやってみたくなっちゃって」
「バルちゃん、だよね」
「何ですか?」
「あ、多分この写真撮ったの、知り合い」