【前回の記事を読む】合宿最後の晩、「強者に勝利できない」現実に1人の部員が…

新しいマネージャー

稲村ケ崎高、夏島高、望洋高、龍城ケ丘高と、合宿後の夏休み中にはこの間に縁があったティームと、合同練習や練習試合を組んでもらった。でも基からあった提案と練習の成果はなかなか実らない。

アタックでのシェイプとは、密集からのマイボールの供給先を複数用意する方法論だ。密集に近い所にフォワードがスタンバイして、スクラムハーフからのボールを前めのフォワードで攻めるか、バックスに展開するかという複数の選択肢を用意するということ。そのためには、少人数でも堅実に素早く密集からボールを出さなくてはならないし、フォワードの機敏な動きが求められる。

ポジショニングも重要で、ある種のセンスが求められる部分もある。すんなりその理屈を理解したことを示したのが、一年生では川之江くんだった。

りょーさんという呼び名は、彼の太くて真ん中に寄った眉毛の存在感からなのだが、しかめっ面に見えるその口元から、ぼそりと先輩に対するアドバイスさえもれてくる。

「テラさん、もっと浅く。ケータさん、そこじゃない。ヨーイチさん、早く!」

まぁ、後輩から言われながらも真剣に修正しようとする二年生たちもまた、素直で可愛いのだけれど。ウィングに入ったかっしーこと柏倉くんは、そのちょこまかした動きで個性を発揮し始めた。

前田くんの爆発的な走りとは違う、それはそれで展開を面白くしてくれそうではあるのだが、仲間にもその動きが読めないという欠点もある。そしてまた、右に左に首を振って始終声を出し続けているのが佐伯くんだ。

ゲームが動いている時には、それはうるさくは感じない。むしろティームのリズムを、エイトビートで作り出しているかのよう。その真ん中に立って、タクトを振っているのが足立くん。

メンバーのみんなが、いつも必ず一瞬、足立くんを見る。彼の目線から何かを汲み取ろうとするように。そしてそれが、足立くんのキャプテンシーなのだ。ミスが連続したって、大磯東のカラーが、いよいよ出来上がってきたかのようではある。

「失敗を繰り返したっていいの。練習試合で失敗したって何も損しないんだから。ただし、なぜなのかは考え続けなさい」

炎天下の、相模湾からの海の風が吹くグラウンドで、佑子は部員たちに言うのだ。この、かけがえのない夏、きみたちの頑張りは、本当に眩しいよ。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『楕円球 この胸に抱いて  大磯東高校ラグビー部誌』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。