ゆっくり歩いて行こう
見上げれば一面の青空。緑の芝があざやかだ。
七月末の、信州菅平。ラグビー夏合宿のメッカであり、標高一三〇〇メートルの高原は吹く風も涼しい。もっとも、宿のご主人は、今年は異常に暑いと言っていたのだけれど。
大磯東高ラグビー部のメンバーは、龍城ケ丘高とともにこの合宿に参加した。両校あわせて十九人の部員たちは、龍城ケ丘の紺と白のユニフォームを身に着けて開会式に臨んだ。
各地のティームが集まり、トップ指導者のコーチを受ける。菅平ラグビーアカデミーというこの企画に参加したのは、山本先輩の考えによる。
大人数とは言えない合同ティームではあり、単独でキャンプを張る余裕はないけれど、仲間と一緒にラグビーのための数日を共に過ごすこと、そこに意義があるのだからと。何度か重ねた合同練習だけでは、分からないことも多いのだから。
その山本先輩は、花田先生と並んで生徒たちを見守っている。佑子は、海老沼さん、末広さんと一緒にメディカルケースや飲料水の支度を調える。夏休み前には、三人して講習会に参加してセーフティアシスタントの資格も取った。拡声器から聞こえてくる主催者の挨拶は、あたたかな励ましと期待感に満ちている。時々目を見交わすマネージャーさんの二人も、明るい笑顔でてきぱきと手を動かす。
末広さんも、海老沼さんから誘われた時の逡巡はすぐに捨てて、あっという間にティームに溶け込んだ。明るくて行動的な海老沼さんに比べて、彼女はとてもたおやかで優しげだ。
決して口数は多くないのだけれど、やるべきことはキチンとやらないと気が済まないところがある。その意味では、とても頼りになるマネージャーさんだ。
整列がほどけると、指導してくれるコーチとの顔合わせになる。高原の日差しで真っ黒に日焼けしたコーチは、にこやかに全員と握手してくれた。佑子も山本先輩たちと一緒に挨拶を交わす。
「若い女性の先生ですか。いいですね。頑張ってください」
励ましの言葉をもらって、かえって緊張が増した。何をどう頑張ればいいのか、不安の方が大きい。