ゆっくり歩いて行こう
試験最終日は午前中で放課になる。これも山田先生からの提案で、半日日程の日は前後半で分けてグラウンドを利用することになり、後半の時間までの待ち時間に、ポジションやルールのレクチャーをすることになった。
足立くんから頼まれて、部室前に集まった一年生に話すのは佑子だ。その背後で、海老沼さんと末広さんの二人が部室内から荷物を運び出している。もう、何もかも全部、という勢いで。
「とりあえず、まずポジションのことから話すね。フォワードとバックスは、この間の龍城ケ丘の時に分かってると思うけど」
目を輝かせている顔も、自信なげな表情も。その無言の顔たちを見まわしながら、佑子は言葉を継いだ。
「背番号順に、1番と3番がプロップ。支柱っていう意味で、最前列でスクラムを支える役目です」
西崎くんが、少し居心地悪そうに身じろぎする。
「で、その間の2番がフッカー。スクラムに入れられるボールを引っかけて、つまりフックして確保する役目。あと、ラインアウトのボール投入とか、フォワードのフロントファイブのまとめ役でもある。ん、その後ろの4番と5番がロック。スクラムや密集をがっちりロックするから。身体の大きな選手が向いてるの」
みんなの目線が保谷くんに向く。その保谷くんの目は、寺島くんの方を向いている。
「6番、7番、8番がバックローって言って、機動力が大事なポジション。6番と7番がフランカーって言って、タックルのスペシャリスト」
佑子の脳裏には、相手に向かってタカのような鋭さで向かって行ったモスグリーンのジャージが浮かぶ。もうあんな集中力を見せることも、最近はないけれど。
石宮くんが佑子の目を見つめる。試験期間中の毎日、彼が他のメンバーから隠れるようにしてタックルダミーに突き刺さっていたことを、佑子は知っている。グラウンドの隅の、普段は陸上部の投てきのメンバーが使っている砂場は、石宮くんのスパイクで掘り返されていた。彼の眼差しが、何だか力強い。