最初の試合、北陸のティームとの対戦では、龍城ケ丘の十一人が先発し、大磯東から四人を補充するメンバーとなった。1番プロップに西崎くん、5番ロックに保谷くんが、センターに足立くん、前田くんがウィングに起用された。ゲームキャプテンは龍城ケ丘のナンバーエイトの三年生が務める。
ワインレッドのユニフォーム、その相手ティームからのキックオフボールが舞い上がり、保谷くんの上空に飛ぶ。マイボール、と彼は叫んだけれど、目測を誤ったのだろう。後ずさりしながらボールに触れたが、キャッチには失敗する。幸いボールは後方に転がったから、ノックオンではない。
その瞬間、佑子は思わず、あぁ、と声をもらしてしまったのだけれど、それで逆に、ものすごい緊張感の中に自分がいたのだということに気づいた。自分の生徒を、試合に送り出したのはこれが初めてなのだ。
龍城ケ丘のキャプテンがこのボールを押さえ、力強いステップを踏んで前進する。ラッキーだったのかもしれないが、彼の前に立ちふさがったのは、多分経験の浅い、一年生の選手たちだったのだろう。タックルをはねのけながら、キャプテンはハーフウェイまで巻き返すことができた。自分の失敗を悔やむ間もなく、保谷くんは彼を追う。一歩一歩が、佑子の目からはひどくスローダウンして見えたのだが、客観的には一瞬のことだったのだと思う。ようやく相手のセンターとフルバックに絡みつかれて、キャプテンは後方を見た。倒されまいと踏ん張ったその視野の中心にいたのは、懸命な保谷くんだったに違いない。短いコールに応じてボールに飛び込んで行った保谷くんだが、モールという密集プレーを習ったのはつい先日の話だ。細かなミスと齟齬と。密集から素早くボールを出すことができない。
「あぁーっ! 押せぇミッキー! 押せぇ! って! ミッキーぃっ!」
海老沼さんが、目をまん丸に見開いて声を上げる。真っ赤な顔で、普段の可愛らしさとは似ても似つかないアルトの声で。握りしめた両手は、もうわなわなとふるえている。
レフリーの笛が短く鳴る。レフリーはきりりとした横顔を見せる、女性だ。走るたびにポニーテールが揺れ、ライムグリーンのレフリージャージが頼もしい。モールからボールを出せなければ、相手ボールのスクラムになる。