とある昼下がり

春子さんと

いつもの喫茶店でお茶していると

口から

白い細い糸が出てきた

なにかの糸くずかと思ったが

あとからあとから

糸が噴き出てくる

午後の日差しに

つややかに光る糸

自分で言うのも変だけれど

私はなかなか糸を吐くのがうまい

首をふりふり

全身を覆う繭を徐々に形作ってゆく

春子さんも感嘆する

「あなた随分エレガントに糸を吐くのねえ」

店員も

特に慌てないのが不思議だ

必然的に

羽化するまでこの店に居つくことになった

繭になった私を一目見ようと

いろいろな人がやってくる

そして春子さんは

それらの人の入場整理を引き受けた

喫茶店は大忙し

皆口々に繭をほめそやすので

私も気分がいい

黙って惚れ惚れと眺める人もいる

私は人を癒しているのだそうだ

そのうちに春子さんが

「繭の言葉がわかる」

と言い出した

最初はごく控えめに

それから徐々に大胆に

生き仏たる私の代弁者として

いかに生きるべきか

人々に説いて聞かせるようになった

誓って言うが

その一言たりとも

私の言葉ではない

断じて否定したいところだが

私にはその術がない

大体

春子さんはどちらかといえば鈍い方なので

霊感など持ち合わせている訳がない

けれども案外に神妙な顔をして

聴衆は春子さんの話に耳を傾けている

私は知らなかった

春子さんがこんなにお喋りだったなんて

私の話に相槌を打つしか

能がないと思っていたのに

さらに春子さんは新しい商売を始めた

繭の糸を入れたお守り袋を売り始めたのだ

春子さんの口はなめらか

繭の糸がいかに霊験あらたかか

文字通り立て板に水

するとみんな

有難そうに押し頂いて

お守り袋を買って帰る

私は大いに不服だ

せっせと糸を吐いたのはこの私なのに

春子さんの稼ぎになるとは納得がいかない

しかし春子さんの商売は好調だ

お守り袋は飛ぶように売れる

春子さんは鼻歌交じりに繭から糸を抜いていく

しまいには裸に剥かれてしまうのではあるまいか

そんな不安がよぎる

ちくりと

春子さんの憎しみに刺される思いがする

同時に

羽化する瞬間を

誰よりも待ち焦がれているのは

春子さんだということを私は知っている

そしてついにある日

繭を破り

晴れて娑婆に出る

なんという光

なんという解放

歓喜のあまり

私は春子さんを抱きしめようとしたが

なぜか春子さんはあとずさる

春子さんの眼に畏れが映っている

それほどに私は神々しいのか

新しい自分を早く見たい

そうだ

お手洗いの鏡で自分の姿を見てみよう

そう思い付いた

その時

第一の信奉者であるはずの春子さんが

ひらひらのついた日傘で

私のお腹を刺し貫き

喫茶店中に響き渡る悲鳴を上げた