尾行

一緒にスーパーに行くと決まって

夫はいつのまにかいなくなる

ずっと私の後ろをついて回るだけだから

いなくなっても構わないといえば構わないのだけれど

どこ行ったのかしら

毎回そうぼやきながら

レジを済ませ

袋に買ったものを詰めていると

どこからともなく現れる

この(かん)

この人はなにをしているのだろう

ある日

いつものように買い物の途中

夫がいなくなったので

思い立って探してみた

すると

精肉売り場の

試食コーナーの電磁プレートの上の

ジュージュー焼けるウインナーを

随分ものほしげな横顔で見つめている

なにその顔

それじゃまるで

満足に食べさせてもらえない哀れな老人みたいじゃない

もう少しで出て行きそうになったが

その時

試食係りの女の子が爪楊枝に刺したウインナーを差し出した

夫は嬉しそうに受け取る

そうして目を丸くして

こんな美味しいものは生まれて初めて食べた

と言わんばかりの表情になる

私は呆れた

それはなんのサービスだ

私の出す料理は

モソモソと義務のように口に運ぶのみなのに

そりゃあ手抜きをしなかったとは言わないが

お愛想の一つでも言ってくれれば張合いも出るものを

何を出してもモソモソ

ならこんなもんでよかろうと思ってしまう

ウインナー一つでそんな顔するなら

今夜からずっとウインナーばかり食べさせてやろうか

そんな意地悪を考えていると

爪楊枝をゴミ箱に捨てた夫は

思い出したようにそそくさと

試食コーナーをあとにした

今度はどこへ行くのかと

そっとついていくと

レジの向こうの

買ったものを袋詰めする台の並んだあたりを見渡している

私を探しているのだ

そう思うと

ちょっと可笑しくなった

もし私がどこを探してもいつまでたっても出て来なかったら

この人は一体どうするのだろう

夫が振り向く

とっさに陳列棚の陰に隠れる

まるで探偵みたい

まだ出て行ってやらない

しばらく泳がせておいて

尾行を続けよう