継続
数カ月後、またボランティアに行かないか、とお客さんから誘われたがお断りした。
あの出会いから俺は、使わなくなった過去のハサミを追加で送った。小さなことかもしれない。だけどハサミは、バイオリニストにとってのバイオリンのように、美容師にとっては大事な相棒だ。いい道具があればもっと人を幸せにできる。俺のは特にこだわってきたから、きっとあのハサミでたくさんの人を喜ばせてくれているにちがいない。
遠く離れていても、時が過ぎても、あの人と被災地のことは決して忘れない。俺たちは繋がっているんだ。
まさかの事態
ドスン
突然の追突だった。翌朝、雲一つない快晴の天気に包まれて自転車で信号待ちしていた。後ろから突撃をくらって、宙を舞い大きな交差点に自転車ごと身を投げ出していた。
頭は真っ白、音もない無意識の世界に飛んでいった。身体が鉛のように重く、下半身にじんじんと痛みが響いた。腿から膝にかけて強く打ったようだ。意識が朦朧としている中で目を開けた。頬っぺたにゴツゴツした地面の冷たさを感じながら、自分は道路の上に横たわっている。
そのすぐ横の車線を大型のトラックが通りすぎていった。自分を避けるように、しかしとまることなく車が続いた。ああ、このまま車に飲み込まれてしまうのだろうか。遠くから近づく救急車のサイレンの音が間近でとまった。カタカタと足音と物音が押し寄せると担架が身体の横に置かれた。救急車? まずい。意識が急にはっきりしてきた。目線の先に警察とバイクの男性の姿が見えた。
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい」
腰と脚の痛みがじわじわと襲ってくる。身体を起こそうと手をつくとパキッと手から激痛が走った。