海辺の学校で
こそばゆそうな笑顔が、五人の一年生に広がる。放課後のグラウンドサイド。いつまでも体操服とジョギングシューズで練習していても、物足りなさは拭いがたい。
電話で合同練習の相談をした龍城ケ丘高の顧問から紹介してもらって、横浜のラグビーショップに学校まで来てもらったのだ。その龍城ケ丘高の先生。ずいぶん若々しい声だったし、どこかで馴染んだ声のように思えたのだが。
部室にはかつてのユニフォームがあることはあるけれど、デザインにしても生地にしても、いかにも古臭い。大磯東のユニフォームをあつらえるのはまだ早いけれど、個々人の練習着やスパイクシューズをあつらえることにしたのだ。
そうしたフィッティングとともに、グラウンドから見える位置にある歯科医院にも、一年生部員がローテーションで通う手筈も整えた。プレーヤーだったわけではない佑子には実感はないのだが、ラグビーではマウスガードをしなくてはならないというルールがある。口腔内の怪我の防止とともに、強く奥歯を噛みしめることが、パフォーマンスを高めるということも聞いた。
それもこれも含めて、ラグビー部員としての装備を身にまとった一年生たちは、どこか晴れがましそうだ。背を伸ばし、決して分厚いとは言えない胸を張る。その胸にあるカンタベリーの、キウイのブランドマーク。日本代表の写真集が部室にあるせいだろう。そのマークを付けたジャージを着ることが、彼らにくすぐったくもラグビープレーヤーの仲間に入ったという気持ちを与えているのかもしれない。
「お前ら、ジャージ着たらプライドを持てよ」
足立くんは引き締めることを忘れない。微笑んでいるだけだった佑子まで、その言葉に背筋が伸びた。
プライド。高校時代、恩師の山名がことあるごとに部員に投げかけた言葉だった。その時はそれで、納得した言葉だったのだが、今思い返せば何を指しているのか、あまりにも漠然としていて、今、目の前にいる自分の生徒に、自信を持って口にはできない。そしてそれは、自分の立ち位置への自信のなさに直結している。
「ハロー!」
いきなり、聞き馴染んだお気楽な声に振り向くと、そこに基がいた。佑子のパートナーであり、一緒に暮らしている元同級生だ。
永瀬(ながせ)基。現役時代は不器用きわまりない、でも激しいタックルを身上にしていたプレーヤーだった。あまりに果敢なタックルを繰り返すために、同級生が、モトそのうち死ぬんじゃねぇ、と言っていたことがあった。幸い死なずに、今は雑誌のお気楽な記事を書くライターをしている。
「何よ、いきなり」
「いや、伊豆方面の取材の帰りでさ。ユーコちゃんがビー部の顧問になったから、そのうち練習見てみたいって思ってたから」
「昨日にでも言ってくれてたらいいのに。それに、今日遅いって言ってたじゃん」
「色々早く進んじゃったからさ。バイパス降りたらまだ四時なんだもん。ちょうどいいかなって思ってさ」
佑子は、お気楽な基の態度に、少し苦笑い。