海辺の学校で
駅からの坂を下りて国道沿いのコンビニの前で信号待ちをしていたら、背後から声をかけられた。振り向くと西崎くんのぎこちない微笑み。太い眉毛が、八の字になっている。
「先生、昨日はすいませんでした」
佑子は微笑みを返しながら、彼のその笑顔に安堵する。
「ちょっと、びっくりしたけどね」
「はい、学校までの間、話させてもらって、いいですか」
そうは言っても、変わった信号に促されて国道を渡って、西崎くんは佑子の半歩後ろにいながら、うつむいて歩みを進めるだけだ。佑子は少しだけ歩く速さを緩めて時々彼を振り向いたものの、でもどうやって話したいことを引き出していいのか分からないままでいた。道が海岸と平行になってバイパスと寄り添うようになり、歩道が少し広くなると、右手から潮の匂いの風を感じた。
「あの……」
小さな声に、佑子は足を止める。一歩を踏み出した西崎くんと、至近距離で向き合うような立ち位置になった。そのまん丸に見開かれた目に、何かが宿っていることが分かる。
「ぼく、先生にウソ言ってたんです。スポーツの経験なんてないって」
「何か、やってたの?」
「中一まで、柔道」
そのことを知っている保谷くんに誘われながら、ラグビー部の部室前で待っていたときにも、その後で練習に参加したときにも、保谷くんの付き添いのような気分だったし、自分が真剣にラグビーをやろうなどとは少しも思っていなかったと、訥々と言葉を連ねる。
気がついてみれば、通り過ぎる何人かの同僚教員と挨拶を交わしながら、サーフショップの前での立ち話になっていた。でも、西崎くんは、今の時間を必要としている。そう思った。