海辺の学校で

「それにしても、足、速ぇな」

それから六人は、繰り返し繰り返し、ゆっくりしたスピードでランパスを走った。何度もボールを落とし、前に投げ、一本としてノーミスのランはない。前に走り過ぎたり出遅れたり、パスに走りこむタイミングもばらばらだ。

六人で走っているのに、パスを呼ぶ声を出しているのは足立くんだけだ。前にパスを出してはいけないのだから、後方からの声がなければパスの出しようがない。でも一年生たちは、パスの受け手を見もしないでボールを放り出したりしている。そして足立くんは、倦むでもなく、律儀に、走る。

いつのまにか、背後を走るバイパスの灯りが点っていた。日が長い五月。ずいぶん辛抱強く、単調な練習を重ねたものだ。

「ラストにしようか」

足立くんの声に、一年生たちは少しほっとした顔になった。六人が一緒にスタートを切った。最後だからと、スピードも上がった。そして、西崎くんがあっという間に遅れる。でも彼は、向かい側のマーカーまで律儀に走って、倍近い時間をかけてスタート地点まで戻って来た。最後は膝も上がらず、足を引きずるように。

「ずいぶん頑張ったね」

佑子の声に、足立くんは上気した顔で微笑む。

「ランパスなんて、久しぶりですから、ね。やっぱり、ボール持って走るのは楽しい。砂地は疲れるけど」

「今度は水分補給の準備もしなきゃ。部室に給水ボトル、あるでしょ」

「古いのが。きったないかも」

「学校に戻ってストレッチしましょう。一年生に指示出してくれる?」

一年生たちは海岸に下りてくる階段に並んで腰を下ろしている。中で、端に座った西崎くんだけは膝を抱え、顔を伏せていた。その姿に声をかけようとして、佑子は言葉をのみ込んだ。抱えた膝が、ぬれている。