双頭の鷲は啼いたか

結局、自分は両親の遺伝子を持っていなかった。どこの誰の子かも分からないのに、家庭という箱庭の中で今まで生きてきたのかとショックを受けた。しかし、この恵まれた環境にいれば、将来はこの巨大な鴻池グループの総裁の座は約束されていた。放射線科の医師ではあるが、たとえ医師であっても理事長ということでいずれ実権は握れる。

武史はいつもと変わらない自分を生きることにした。動揺することはない。ただ少し、ムカついただけだ。それは若さゆえの事で、年齢を重ねれば些細な事実として葬り去ることは可能だろうと思っていた。

金、権威、それがあれば血の繋がりなどどうでもいい。いつもどこか自分に対しても世の中に対しても、斜に構えていた武史にすれば些細な気持ちの振れ幅でしかない。はず、だった。だが、自分の出生はこんなどこにでもあることで済まなかった。悪魔のような父親の所業により、武史のすべては塗り替えられてしまうのだから。

武史はそれすら知らず、予想が立証されただけ。すべては想定内だ。だが、「俺は誰だ? どこから来てどこへ行くのか」と、一人反芻していた。

更に苛立つ毎日が積み重なるだけで、絶え間ない怒りのフラストレーションをぶつける先を探していた。

そんなある夜、運命の事故が起こった。これが若者二人にとってどんな意味を持つのか、それとも、神の裁量によりもたらされたものなのか。事態はここから起動する。