六月二十六日 火曜日
少女と動揺とポニーテール 3
ある日のことだった。
なんとか自分なりの意見が言え、ほっと胸をなでおろして席に着いたそのとき、突然、飛んできたなにかが肩に当たり、机の下に落ちた。
驚いて足もとを見ると、黒いヘアゴムがあった。花のかたちの青いビーズ飾りがついたかわいらしいヘアゴム。しかも、小さく折った紙が、手紙みたいにつけられている。
ゴムをひろいあげてその紙を見ると、
「To You」
と書かれている。
首をひねりながら、手もとで紙を広げたわたしは、思わず
「え?」
と声をあげそうになった。
「Good job‼」
―大きくそう書かれた下に、ポニーテールの女の子が、親指を立て、ウインクしているイラストが添えられている。
なに、これ、かわいい! この女の子、だれだろう。ポニーテール……もしかして…………え!? 上原先輩!?
びっくりして先輩のほうを見る。そのとたん、わたしはもっとびっくりした。先輩が、髪をおろしていたのだ。なのに、その面もちは、いつもとまるで変わらない様子。
びっくりしすぎでぽかんとしていると、顔は前を向いたまま、先輩の右手がすっとあがった。こぶしから、ピンと立てられた親指。そう、あのイラストとおんなじ……。横から紙をのぞきこんでいたマオが、突然わたしの首に腕をまわした。
「きゃ! ちょっと、離してよ、マオ」
「にゃはは、やったね、ポンちゃん!」
「ちょっと、そこの人たち、静かにしてもらえますか」
視線を前にもどすと、生徒会役員さんが、怖い目でこちらをにらんでいた。
「す、すみません!」
わたしは、あわてて頭をさげた。会議のあと、先輩にヘアゴムを返しに行き、お礼を言おうとすると、先輩は
「ああ、これ、どこいったかと思ってたんだ、サンキュ」
とすまし顔でそれを受けとった。指先が触れた先輩の手のひらは、とても温かかった。そのまま部屋から出ていこうとする先輩をあわてて追いかけ、その背中に
「先輩、ありがとうございます!」
と声をかける。先輩は、驚いたように振り向き、それから、笑って手を振ってくれた。わたしは、ますます先輩のことが好きになった。
そのことがあってから、会議の前後、先輩となにげない会話ができるようになった。いろいろ話をするようになってわかったのは、先輩が、想像していたよりも、もっとずっと優しくて気さくな人だということだ。
「本多さん、ポンちゃんって呼ばれてるんだ。これからわたしもそう呼んでいいかな」
先輩にそう言われたときは、すごくうれしかった。そして、わたしたちもまた、ごく自然に先輩のことを「サキ先輩」と呼べるようになっていた。