近親結婚

『源氏物語』の時代、近親者間の結婚は、今日と様相を異にしていたようである。

光源氏が晩年になって正妻として迎えた女三の宮は、光源氏の異母兄である朱雀院の皇女であるから、光源氏と女三の宮は、叔父・姪の間柄である。

朱雀院が寵愛された朧月夜は、朱雀院の母である弘徽殿大后の妹である(弘徽殿大后と朧月夜とが同腹の姉妹であるかどうかは明らかでないが、弘徽殿大后と朧月夜は、いずれも右大臣の姫君である)から、朱雀院と朧月夜は、甥・叔母の間柄である。

『源氏物語』では、これらが禁忌に触れるものとしては、描かれていない。光源氏と正妻である葵の上との関係を見ると、光源氏は桐壺院の皇子、葵の上は桐壺院の妹である大宮の娘であるから、光源氏と葵の上は、従弟・従姉の間柄である。

これは、今日でも問題ではない。池田亀鑑氏によると、異母兄妹の間の結婚もあり得たとのことである(『平安朝の生活と文学』ちくま学芸文庫)。

『源氏物語』には、これに相当する事例は見られないが、それを推測させる記事として、朱雀帝が、光源氏の男ぶりをほめたうえで、

「自分が女であったなら、同腹の姉弟であっても、きっと言い寄っていただろう。若かったころには、そんな気持ちになったものだ」

と言われる場面がある。朱雀帝が禁忌に触れることとして語られているようには見えない。

また、匂宮が同母姉である女一の宮の美しさにこらえかねて歌を詠まれる場面がある。

匂宮「若草のねみむものとは思はねどむすぼほれたる心地こそすれ」

(若草のように美しいあなたと交わりたいと思うわけではありませんが、胸が締め付けられる心地がします)

この場面では、同母姉弟間の交わりは、禁忌に触れると意識されているようである。

(1)我、女ならば、同じはらからなりとも、かならず睦(むつ)び寄りなまし。若かりし時など、さなむおぼえし