【前回記事を読む】ゲーテの詩と『源氏物語』には共通点が!? ゲーテが述べる「機会の詩」とは何を意味するのか?

一 『ゲーテとの対話』(上)を読みながら考える

『源氏物語』の映画、演劇はなぜ失敗するのか

『源氏物語』について言うと、俳優に人を得られるかどうか以前の問題として、演出家自身の問題がある。

演出家は、大詩人たる紫式部が描きだした世界にどれほど没入しているのか、紫式部と感情を共有することができているのか、演出家自身が『源氏物語』にどれほど感動しているのかなど、『源氏物語』の映画・演劇を演出するにふさわしいのかが問われなければならない。

少なくとも、演出家自身が『源氏物語』を読んで、深く感動し、感激したというくらいの心意気でないと、俳優を感動させることができないし、適切な演技指導をすることもできない。俳優の人選は、その次の問題である。

演出家が『源氏物語』に感動し、俳優が『源氏物語』に感動してはじめて、観客にその感動を伝えることができる。これまでの『源氏物語』の映画や演劇では、これらの回路に欠陥があったのではないか。

豪華な舞台装置や衣装を調えたからと言って、紫式部の精神が観客に伝わるはずがない。