はじめに
私たちが『源氏物語』の解読にとりかかってすでに十数年になるが、さらに解読を深めるために役立つものはないか、探していたところ、次の本に出会った。
エッカーマン著・山下肇訳『ゲーテとの対話』(上)(中)(下)(岩波文庫、二〇一二)。
文豪ゲーテの名を知らないわけではなかったが、それ以上のことは何も知らない。エッカーマンについては、その名すら知らなかった。しかし、わらにもすがる気持で読み始めて、この本から離れることができなくなってしまった。まるでゲーテの肉声が聞こえてくるような心地である。
エッカーマンがはじめてゲーテを訪ねたのは、一八二三年のことで、エッカーマンは三〇歳(あるいは三一歳)、ゲーテは七三歳であった。これ以後、ゲーテが一八三二年に八二歳で亡くなるまでの約九年間、ゲーテの側近くにいたエッカーマンは、その間のゲーテの言行を詳しく書き留めた。それが、この本である。
ゲーテを尊敬してやまない、まだ年若いエッカーマンに対して、すでに大作家としての声望を得ているゲーテ。ゲーテは、エッカーマンに、相当の才能があると見たのだろう。ゲーテのエッカーマンに対する言葉は、懇切で、その内容は、文学にとどまらず、芸術全般、さらには人生全般に及ぶ。ゲーテの言葉の一つ一つが、胸に染み入るようで、味わい深い。
ゲーテにさらに深く接したいという思いで、私たちは、次の本も合わせて参照することとした。
高橋健二編訳『ゲーテ格言集』(新潮文庫、平成二八年)
本書では、『ゲーテとの対話』及び『ゲーテ格言集』の中から、『源氏物語』の解読に関連があると思われるゲーテの言葉を選択して、私たちの感想や意見を書き綴ってみたい。
なお、本書において、『ゲーテとの対話』からの引用に当たっては、岩波文庫本の(上)(中)(下)の別及び頁数のみを記載した。『ゲーテ格言集』からの引用に当たっては、「格言集」と記載の上、新潮文庫本の頁数を記載した。
また、『源氏物語』の原文は、阿部秋生・秋山虔・今井源衛・鈴木日出男校注・訳『源氏物語』①〜⑥(新編日本古典文学全集二〇〜二五、小学館、一九九四〜一九九八)によった。引用に当たっては、「源氏物語」と記載の上、小学館本の巻数及び頁数を記載した。
『紫式部日記』の原文は、中野幸一校注・訳「紫式部日記」(新編日本古典文学全集二六、小学館、一九九四)によった。引用に当たっては、「紫式部日記」と記載の上、小学館本の頁数を記載した。