俳句・短歌 短歌 故郷 2021.09.30 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第73回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 久し振りお声が掛かり一同に 相集まりて居酒屋に行く 相和して飲み交わす程酔い巡り 宴楽しく疲労を癒す 共に居て聞いた笑顔のしあわせね 黄昏たそがれ時の愛の一言
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『ヴァネッサの伝言』 【第36回】 中條 てい イダから受ける治療はなかなか苦しい日もあったが、効果が感じられた。「なあ、お前」その晩の治療が終わって、彼が話を切り出した… 「身寄りは、どなたもいらっしゃらないのですか?」「身寄り? 笑わせるな。奴隷に身寄りも何もあるものか」語気は穏やかだったが、バルタザールはくるりと窓の外へ顔を背けた。さっきまで浮かべていた笑いが消え、あの、人を見透かしたような覚めた目をした男の顔に、妙に脆(もろ)い表情を見たような気がした。それもまた、ほんの束の間で消え失せて、今はただ朝の陽光に映える冬の木立を眩しそうに目を細めて眺めている。シ…