俳句・短歌 短歌 故郷 2021.09.23 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第72回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 秋空に雪渓頂き水色に 浮かぶ絶美の南アルプス 槍ヶ岳幸福抱え聳えてる 諏訪湖湖畔の展望台で 若き日のロシア民謡口遊くちずさむ 忘れられ無い一つの歌を
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『空に、祝ぎ歌』 【第23回】 中條 てい 自分の顔が嫌いだった。臆病そうで、弱い顔。化粧を落とすと、鏡の向こうから、貧弱な素顔が物憂げにこちらを見返している。 「用があったのはニコなんだから、もうそんな心配するなよ」「お気楽なこと言わないでよ。あいつがこんなところまでのこのこと何をしにくると思ってるの。あのおじさんだって似たような状況になってるってことよ、その女と。そこであたしを見かけたりしたら今度は見逃してはくれないわ」「さっきの話だけど、その相手の女はどうなったんだい。部屋にいたのか」とたんにキーラの表情がさっと青ざめた。唇を噛みしめ、目を逸らせて…