出会い─パリの片隅で

日曜の朝、先週と同じようにアトリエを訪ねると、モネは何でもない調子で切り出した。

「じゃ、始めよう。マドモワゼル、頼みます」

カミーユは一瞬、頭の中が真っ白になった。始める? そう、彼の顔を見に来たわけではない。私は今日から、彼のために裸体モデルを務めるのだ。……そうだ、脱がなくちゃ。でも……今、ここで? 冷静になろうとすればするほど混乱した。

「今着ているものはそちらの部屋で脱いで、このローブを纏まとって来てください。ここでポーズをとってもらいます」

バジールが説明してくれた。気づくとそこに、ソファに布を掛けた“台”が用意されていた。そういえば、今朝はもうすっかり部屋も暖められている。カミーユは隣室に入った。彼らにとって裸なんて当たり前。そう覚悟してきたはずなのに手はもつれた。

今朝はコルセットを緩めに締めた。脱いだときに跡が残っていては妙に生々しくて恥ずかしいと思ったからだ。だが、その緩めに締めたコルセットを外すのさえ、ひどく時間が掛かった。

先週、モネに裸体モデルになることを承諾されて喜んだのもつかの間、帰り道にはすでに後悔していた。今、独り見知らぬ部屋でドレスを脱ぎながら、自分は何か、とんでもなく間違ったことをしているのではないかと思った。

事の成り行きを考えれば、モネやバジールにやましいところはないだろうけれど、もしかしたら彼らは悪い人で、私はうまい具合に騙されて、こんなところでドレスを脱いでいるのではないかしら……。妙に現実感がないのは、これまでの日常からかけ離れているせいだろうか。